菊田大使インタビュー:MILAN 2023(2024年2月)

令和6年2月29日
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※これは、JAAN(ネパールJICA帰国研修員同窓会会誌「MILAN 2023」(2024.2発刊)に掲載された菊田大使へのインタビューの日本語訳です。

 

菊田 豊 ネパール駐箚日本国特命全権大使 インタビュー

1.日本とネパールの外交関係について、どうお考えでしょうか。この外交関係の向かうべき方向について教えてください。

  多くのネパールの友人たちと同様、日本とネパールの外交関係は、長年の友好的な人的交流と開発協力に基づく素晴らしいものである、と申し上げたいと思います。私たちは2022年に日・ネパール留学生交流120周年、そして2023年にはJAANの50周年を祝いました。
 今後、2025年の大阪関西万博に続き、2026年には日・ネパール国交樹立70周年を迎えますが、この年は偶然にもネパールがLDCを卒業する年でもあります。そのため、私たちは多くの祝福の機会を持つとともに、これまでの友好関係をさらに強化するために協力していくこととなります。
日本におけるネパールのプレゼンスは、在日ネパール人の増加とともに高まっています。ネパールに対する日本のビジネスセクターの関心も高まり、将来、ビジネス、商業、貿易、投資の分野でさらに緊密な関係が築かれることを願っています。

2.ネパールの開発努力に対する日本政府のODA援助をどのように評価していらっしゃいますか。

 南アジアの安定と平和は、日本のみならず国際社会全体にとって極めて重要です。ネパールはその要衝にあります。だからこそ日本は、ネパールの民主主義の進展と社会経済開発を長年にわたって支援してきたのです。日本のネパールに対する現在の国別開発協力方針では、2026年までのLDC状態からの脱却、SDGsとの整合性などを念頭に、以下の3つの優先分野を挙げています。
a)経済成長と貧困削減
 -交通インフラ、電力・エネルギー、水道・衛生、民間セクターの改善、農業、教育、医療、社会サービスなど。
b)防災・気候変動対策
 -災害リスク管理、レジリエンス、森林資源など
c)ガバナンスと民主化の強化
 -法律、中央・地方政府及びコミュニティーのガバナンス能力など
 日本の開発協力の強みは、このような様々な分野のニーズに的確に対応するために、JICAによる融資、無償資金協力、技術協力、大使館による草の根無償資金協力(GGP)やNGO支援、国際機関への拠出、人材育成のための奨学金など、様々な援助スキームを持っていることだと思います。

3.ネパール駐箚日本国大使になった感想をお聞かせください。

 もちろん、私にとって計り知れない喜びです。素敵な人々、食べ物、美しい自然との交流を楽しんでいます。この国の文化、伝統、多様性、そして根本的な社会経済の変革に向けた人々の努力に敬意を払いながら、とても感謝しています。
 とはいえ、日本の援助が実施される過程で、ネパール側に起因する課題に直面することがしばしばあるということは、触れなければなりません。問題を生じさせるのではなく、問題を解決する力をネパール側が私たちに見せてくれることを願っています。ODAだけでなく、ビジネス、商業、貿易、投資といった民間セクターとの関係において、このことはさらに重要であります。

4. JAANについてどのように感じていらっしゃいますか。また、JAANはネパールの開発努力にどのように貢献しているとお考えでしょうか。

 何度も申し上げているように、私たち日本人は、人材育成こそが国造りの基盤であると固く信じています。JAANはこのコンセプトを見事に体現しています。JAANのメンバーは、JICAが提供した日本での経験から得たものを自身の中に持ち続け、より良い生活のために最大限に活用し、ネパールの発展につなげています。JAANは強力なネットワーキング能力、優れたリーダーシップ、そして仲間思いの雰囲気を備えています。友好的な二国間関係だけでなく、この国の発展のためにも素晴らしい組織です。つまるところ、ネパールの発展はネパールの人々にかかっているのです。

5.JAANは日本とネパールの結びつきをさらに強めることができていると評価できますか。

 もちろん答えは「はい」です。50周年という記念すべき機会に、私はJAANが設立以来両国の絆を深めるために果たしてきた役割に感謝の意を表したいと思います。2023年にJAANに対して外務大臣表彰が授与されたことが、そのすべてを物語っています。私は、JAANが来る将来も、私たちの緊密な結びつきを代表する最も重要な団体のひとつであり続けることを確信しています。
 JAANは排他的ではなく、包括的な考え方を持っていると感じており、開発、福祉、ビジネスなどに関係するこの国の他の団体と素晴らしい協力関係を広げていってほしいと思います。また、JAANが熱心な日本のファンであることに感謝し、JAANが仲介となって、在ネパール日本人含めて日本人の間でネパール・ファンが増えることを願っています。在ネパール日本国大使館は、そのために可能な限りの協力を惜しみません。

6.日本とネパールの絆をさらに深めるためにはどのようにすればいいと思われますか。

 はじめに、私は、人的交流について新しい段階に入ったのではないかと感じております。かつては、選ばれた学生やビジネスエリートだけが日本に行くことができましたが、現在では、多くの労働者が日本に移住しており、その多くは家族を伴っています。日本におけるネパールのプレゼンスが増すにつれ、両国間の結びつきは確実に強まるでしょう。その一方で、彼らは必ずしも日本の言語や文化、社会制度に精通しているわけではありません。いかなる相互支援制度であれ、それらが充実し、ネパール人一人一人が日本で幸せに暮らせることを願っています。
 第二に、経済関係が今後もっと視野に入ってくると思っております。大使館やJICAは民間セクターを支援する方法を模索しています。ネパールの関係機関や政府、財界は、日本の民間セクターにとって収益性やビジネスのしやすさの面でネパールが魅力的な進出先として比較優位性を持たなければならない、ということをもっと認識してほしいと考えています。他者に助けを求めたり、要求したり、催促したりするのではなく、日本の資本や技術を誘致するために、どのように障害を取り除き、どのようなインセンティブを提供できるかを考える必要があるでしょう。

7.JAAN会員へのメッセージをお願いします。

 私からのメッセージは、心からの感謝、高い評価、大きな期待、そして激励です。次の50年に向けて、JAANの皆様がこれからも日本との交流を楽しまれ、生涯にわたる努力の中で成功され、サヤウン・トゥンガ・フール・カ・ハミの素敵なネパールを一緒に見られることを願っています。