菊田大使寄稿:ナグドゥンガトンネルの本坑開通に寄せて ~ネパールの発展のために~

令和6年4月16日
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※これは、2024年4月16日付のカンティプール紙ザ・ヒマラヤン・タイムズ紙及びニュー・スポットライト紙に掲載された菊田大使による寄稿文の日本語訳です。

ナグドゥンガトンネルの本坑開通に寄せて
~ネパールの発展のために~
 
1.2024年4月15日、遂にナグドゥンガトンネルの本坑が貫通した。これはネパール側の協力と共に、日本の先進技術と不屈の精神の象徴である。重要なのは、約束や言葉ではない。実施することである。日本は約束を守る国である。本件は、220億ルピー規模のインフラ案件であり、日本はその4分の3をネパール政府に対して譲許性の高い借款にて支援している。ネパールにとって初の交通道路トンネルであり、これから内装工事等を経て完成した暁には交通の利便性が格段に向上し、地域経済振興に極めて大きな意義がある。数多の困難を克服し、ここに至った全ての関係者に心からの祝意と敬意を表したい。
   そもそも、今も成長を続け複雑に入り組んだ地層を有するヒマラヤ山岳地帯にトンネルを掘ることは想像を絶する難事業である。難航を極める坑内での掘削作業中での思わぬ出水や崩落と戦うことの繰り返し。トンネルの外では豪雨による法面の土砂崩れやコロナ禍が追い打ちをかけた上、資材供給の確保、地元の理解といった人為的な要因もあった。こうした中で、工事を請け負った日本企業はかつてシンズリ道路建設に当たった経験を踏まえ、将来必ずやネパールの人々の為になるという信念のもと、技術的挑戦を続けた。共に汗を流すネパール人技術者達にとってはまたとない現場での技術移転の場ともなった。私はかつてプロジェクトに当たる日本人責任者から、将来多くのネパール人技術者達が自分はナグドゥンガを経験した者だと語るのを聞くことが楽しみだと伺い、胸が熱くなったことを記憶している。
 
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2.こうしたインフラ分野はもちろん、教育、保健、ガバナンス向上のための制度構築等々多様なセクターに於いて、日本はネパール政府を相手にJICAを実施機関として協力案件を推進しているが、私は、政府間のみならず、様々な主体を通じて支援を届けることが出来る多様なスキームを持っていることも日本の経済協力の強みであると考えている。
   地方のコミュニティなどを直接支援する人間の安全保障草の根無償資金協力(GGP)については、私自身この1年間で5件の新規案件に署名し、コロナ禍で停滞していた引渡し式も16件実施した。NGO連携無償で支援する日本のNGOも様々な地域、様々な分野で地道な活動をしている。国際機関との連携も、特にロジスティクスに課題がある当国に於いては有効であると感じている。コロナ禍の際、日本製ワクチンをユニセフの協力によりネパール各地に届けられたこと、昨年11月のジャジャルコット地震の際にはUNDPとの協力案件のお陰で現地での緊急対応が可能となったことなどはその顕著な例である。
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3.それでは、なぜ日本はネパールを支援するのか?それは、この国の発展のために、日本は役に立つことが出来ると確信するからである。
   言うまでもなく、共に山国で、有史以来厳しい自然と向き合って来た両国民は、地震、洪水などの自然災害、気候変動など多くの共通の課題を有している。日本の戦後復興、民主主義の進展、防災への取組等の経験からネパールは多くのことを学ぶことが出来る。現在急速に存在感を増している在日ネパール人は、少子高齢化の日本の経済社会にとって貴重な支えとなっているが、そればかりでなく、その中で得られた知識、経験をネパールの将来の為に活用して欲しいと心から願う。本年年明けの能登半島地震の被災者支援のため現地にかけつけてくれた在日ネパール人達は、2015年ネパール大地震の際に助けてもらったお礼だと語ったそうである。我々は互いに助け合うことで相互利益を見出す二国間関係にある。
   本年2024年は、日本がコロンボプランに1954年に参加し、援助を受ける敗戦国から援助を差し伸べる国として一歩を踏み出してから70周年に当たる。そして再来年2026年は、日本とネパールの外交関係設立70周年の記念の年である。そうした新たな高みに向けて、要人往来等人的交流や開発協力の推進に引き続き努めて参りたい。
 
4.  かかる次第であるので、ネパールの人々には、日本の支援をどうか有効に活用して欲しいと願わずにはいられない。日本は長年の友人として私心なく、利害得失への関心なくネパールを支援してくれる旨、感謝の言葉を承ることは多いが、私はその度に、日本はネパールには関心があるのだ、それはネパールの平和、安定、発展である、と応えている。日本国民の血税を原資とする日本の支援は、慈善(charity)ではなくネパールの明るい未来への投資(investment)であるとも応えている。
   日本のODAにはFrom the People of Japanと記されているのにお気づきであろうか。あれは、自分が外務省経済協力局の若き事務官であった時、日本のODAを支えているのは日本国民の善意であることを伝えるために考えた自分の作品である。
   ネパールの為に日本が供与する支援が無駄にならないためには、ネパール政府・地域の協力が不可欠である。関係各位にはどうか宜しくお願いしたい。